流域の特性や課題に応じ、ソフト・ハード対策の両面から、既設ダムの長寿命化・効率的かつ高度なダム機能の維持、治水・利水・環境機能の回復・向上、地域振興への寄与など、既設ダムの有効活用(ダム再生)が進められつつあります。
2018年の西日本豪雨や2019年の東日本台風以降、ダムの緊急放流が増加し、これを防ぐための事前放流が全国的に推進されています。しかしながら、現状ではダムの貯水容量には限りがあり、これをさらに有効活用するには、「長時間アンサンブル予測」などの最新の気象予測情報を活用して運用をさらに高度化する「ソフト技術」や、古いダムを「嵩上げ」して貯水容量を増やしたり、「増設放流管」や「放流トンネル」などを設置して、より効果的に事前放流を行ったりするための「ハード技術」の技術開発が求められます。
また、このような運用高度化によって効果的にダムに貯留された水は、15日先までの「長時間アンサンブル降雨予測」を用いることで、次の洪水の発生有無を見据えながら、発電機を通してゆっくり放流することで大きな増電効果をもたらすことが期待されます。
特に、河川に縦列に配置されたダム群を使って、いかにその効果を最大化するかの方法論の開発が求められています。最近では、太陽光発電などの変動性電源の増大に伴って、その調整役としての水力発電の価値が増大しており、気象予測を用いた水力発電の効果的な運用は大きなテーマとなっています。
例えば、発電ダムおよび多目的ダムにおけるソフト対策としては下記のような運用高度化が挙げられ、治水・利水の両面の効果が期待されています。
ダム運用を実務で適用するためには、降雨予測の高度化が不可欠です。例えば、現在は、出水が予測される際の事前放流の期間は1~3日間程度が一般的ですが、より長期の降雨予測をダム運用に活用することで事前放流として発電取水による貯留水の先使いが可能となれば、「洪水貯留機能の拡大」「発電電力量の増大」のさらなる効果増大が可能となります。長時間アンサンブル降雨予測データを活用し、1~2週間先に大規模出水が見込まれる場合に発電取水で貯留水を先使いしてダム水位を事前に低下させることができれば、無効放流量の低減が期待できます。黒部ダムで2020年を対象に試算した結果では、運用の高度化により水系全体で約20GWhの増電効果が見込まれています。
多目的ダムでは、出水時に洪水調節容量の一部に流水を貯留し、洪水後期放流時に洪水が予測されない場合には、ゲート放流を抑制し、発電放流により水位を低下させることが可能となります。また、出水が予測される場合には、発電により事前に水位を低下させて空き容量を確保することも可能となります。